
第2回『へうげもの』
みなさん、こんにちは。社会と漫画を愛するサイエイDuo桶川東口校の講師が、日本と世界の歴史をマンガでめぐって行こうという企画の第2回目です。
進学塾のコラムですので、漫画として面白いだけでなく、埼玉県の高校入試に役に立つものを優先的に取り扱っていこうと考えております。
今回は、今年ついに最終巻が刊行され、10年の長期連載の幕を下ろした『へうげもの』を取り上げてみたいと思います。
作品名:『へうげもの』山田芳裕(講談社・2005年~17年・全25巻)
- 時代区分:安土桃山~江戸初期
学習ポイント:桃山文化~元禄文化。本能寺の変~大阪の陣(※高校受験用表記。「大坂夏の陣」のことです。)の政治史。
戦国時代を扱った漫画は、挙げればきりが無いくらいあります。有名どころでは原哲夫の『花の慶次』『影武者徳川家康』(ともに隆慶一郎原作・集英社)や、宮下秀樹の『センゴク』シリーズ(外伝などを含めると50巻以上・講談社)、その他、タイムスリップしたり、生まれ変わったりで織田信長に仕えたり、信長になっちゃったりなどの作品もたくさんあります。まあ西村ミツルの『信長のシェフ』(連載中・芳文社)は面白いです。戦国~安土桃山はアクションが多く、漫画向きな時代背景なのかもしれませんね。
そうした競合漫画が多い中、なぜ『へうげもの』なのかと言いますと、主人公が古田織部という大名で、織田信長~豊臣秀吉~徳川家康の三人に仕えた「茶人」というところが斬新だったからです。この漫画は戦争に明け暮れた時代を「カルチャー」から俯瞰していく作品なのです。
タイトルもいいです「へうげもの」。歴史的仮名遣いです。文語的表現です。口語に直すと「ひょうげもの」です。千利休が打ち立てた「わび・さび」を、自分なりにブラッシュアップして「ひょうげ」(滑稽さ・軽さ)という新しい形にしていった芸術家の話ともいえます。
高校入試的には、安土桃山時代は
- 織田信長と豊臣秀吉による天下統一
- 「桃山文化」は、狩野永徳の障壁画や出雲阿国のかぶき踊りのような「商人や大名たちによる豪華で雄大な文化」であると同時に、室町後期の「幽玄・わびを基調とする」東山文化を継承した千利休が茶道を大成した時代である。
- また、スペイン・ポルトガル人ら「南蛮人」による「南蛮文化」の影響で、キリスト教など西欧の文化が流入した時代でもあった。
の三点が大切です。
『へうげもの』は近年の歴史研究の成果もふまえつつ、信長から秀吉への権力の移り変わりや、外せない大事な歴史事象も描かれています。これを読み込むだけでも、相当詳しくなれると思います。登場人物の外見は漫画的にデフォルメされたものが多いですが、豊臣秀次などは資料をもとに描かれていたり、細川幽斎は第79代首相の細川護煕(高校受験では「55年体制を終わらせた首相」として出題されたりします)の祖先ということでそっくりに描かれています。
埼玉県公立入試で頻出する文化史対策漫画として考えても、千利休・出雲阿国・長谷川等伯・俵屋宗達などが登場してきます。大学入試レベルでも登場人物の相関関係をおさえておくことで理解しやすくなることでしょう。
当時の日本でのキリスト教の流行の様子や、イエズス会が布教だけでなく奴隷の売買などカトリック諸国の侵略の先兵であったことなども合わせてわかるようになります。徳川家康が召し抱えた三浦按針(イギリス人)がプロテスタントとカトリックの違いを語る所などは大いに参考になると思います。世界遺産である石見銀山が、ペルーのポトシ銀山以前の世界の銀流通の中心地であったことなどもわかります。
こうしてあらためて『へうげもの』の魅力を語ろうとすると、漫画と文化の相性の良さを感じます。戦国大名たちのかぶいた鎧や兜(織部本人のもの以外は、ほぼ実在しています)、南蛮文化の影響を受けた装飾や食事、秀吉の朝鮮出兵で連れてこられた陶工たちの影響など、絵で見ることで納得できることも多いです。
最後になりますが、2011年にNHKでアニメ化もされていますし、漫画文庫化もされていますので、なにかと手に入れやすい作品だと思います。なにより漫画家山田芳裕の構成のうまさで、グイグイと読まされる傑作です。完結したこのタイミングでぜひ読んでみてほしい作品です。